Takaのエンタメ街道

一生を映画に捧ぐと決めたTakaが主に映画・テレビ・音楽について書くブログです。

あいちトリエンナーレに行ってきたという話

最近は映画の興行収入のことしか話してない当ブログですが、久々にTwitterだけでは留められない話題を見つけたので書きます。

f:id:ot20503:20190803012126j:image

にしても、今住んでいる愛知県がえらい騒ぎになってしまっている。

というのも、現在開催されている「あいちトリエンナーレ」に置かれている一部の展示について議論が巻き起こっているのだ。

それは「表現の不自由展・その後」という企画でのこと。特に慰安婦をテーマにした「平和の少女像」と昭和天皇(と推定される)の肖像を燃やす「焼かれるべき絵」、昭和天皇を燃やす映像(「遠近を抱えて」が収録された図録が焼却された「富山県立近代美術館事件」を元に燃やした映像)を挿入した「遠近を抱えて Partll」が大きく議論を起こしている。

こうした議論が起こる中で、名古屋市市長の河村たかしさんは「少女像」の展示中止を要求するなど政治問題へと発展している。

この問題を自分も認識して、不快にならなかったかといえば不快にはなってしまったのだが、果たしてその表現を潰せばいい話になるのか。いかさか疑問に感じました。

ということでせっかくなら、行って確かめてみようじゃないかというわけで(いつかは行こうとはしてたけど)、早速行ってまいりました。

もちろん、「表現の不自由展」だけではなく、様々な展示がされていたので、今回は個人的に興味深かった展示にも触れながら、語っていきたいと思います。

 

 

1.あいちトリエンナーレ2019で興味深かった展示たち

「表現の不自由展」ばかりが取り上げられて、それだけでもう行かないという選択を挙げた方々もいらっしゃって、その方々を否定するつもりはありませんが、もったいないなと。せっかくこうして書く以上、「表現の不自由展」ばかりを考えるのではなく、興味深かった展示についても取り上げていこうと思います。

今回は私的な都合上、愛知文化芸術センターしか回ることができませんでしたが、他にも名古屋市美術館(ホドロフスキーは見たかった…)や四間道・円頓寺豊田市美術館といった会場でも開催されてたりします。

まず、入るとステージの幕と言われる音楽バンドのTシャツを縫い合わせたものが目に入ってきました。

f:id:ot20503:20190803035126j:image

今回、初めてこういう芸術イベント(地元民なのに初トリエンナーレ)を見にきたのでこういう展示がたくさんあるのかなと期待感を煽るのには良い起爆剤になったと個人的に感じながらチケットカウンターへ。

料金は1DAYパスなら、大人1600円、大学生1200円、高校生600円で1日中ならこの料金で全部回ることができます。複数日ならフリーパスといったものもあり。あと、manacaTOICAを提示すると100円割引されるといったこともありますよ。

さあ、いよいよ中へ。ここからは興味深かった展示をいくつか紹介していきます。芸術文化センターの10階から見てきた順に紹介します。

1.「The Kiss

f:id:ot20503:20190803064229j:image

f:id:ot20503:20190803064224j:image

まず、中へ入り目に飛び込んでくるのは2つのスマホ型のでかいモニターが重なり、映し出されているのは目を閉じた人の顔。重なる部分が口になっているため、まるでキスをしているこのアート。初っ端からこんなアイデアを思いつくなんて…と驚かされました。

2.「60分間の笑顔

f:id:ot20503:20190803024855j:image

スーツを着た立派な大人たちが60分間笑いながら僕たちを見つめ続けるというこの作品。生身の人間なので、ずっと同じ所作が出来るわけでもなく動いちゃったり、60分間笑顔で居続けるということはそれは作られた笑顔になる人もいたりと面白かったし、見ているこっちも自然にニコッとなってしまった。

3.「孤独のボキャブラリー

f:id:ot20503:20190803025526j:image

f:id:ot20503:20190803025519j:image

f:id:ot20503:20190803025537j:image

f:id:ot20503:20190803025532j:image

「60分間の笑顔」を抜けた先に待ち受けるは45体のピエロ。まるで本当に生きてるみたいで少しゾッとしたりしたんですが、様々なポーズをしたピエロの彫刻たちは面白いし、僕を含め皆さん、スマホ片手にいかにそのピエロを上手に撮るかといったことをしていて、面白かった。たぶん、一番印象に残るのはこれだと思う。

4.「Function Composition」「Semantic Segmentation」Translation Zone

「レシピに著作権はない」という言葉に惹かれ、長い時間、映像を見てしまった作品。料理のレシピには著作権がないこと、レシピサイトにはそのレシピの成り立ちについて書かれてるとか、今、日本にはレシピサイトというものが溢れてる中でこういうのやるのは興味深かった。

5.「環世界とプログラムのための肖像」Decoy-walking

f:id:ot20503:20190803064328j:image

f:id:ot20503:20190803031715j:image

現実世界と監視社会としての仮想世界を歩行という表現で訴えてくるわけだが、どうやら自分が来た前日にパフォーマンスをしたらしく、それはそれで見たかった…

6.「抽象・家族

f:id:ot20503:20190803043041j:image

絵、映像、文、セットというものを使って家族を表現した作品。

映像は長かったので全部は見れてませんが、3ヶ所あっても語られ方が異なってたり、家族のルーツでは祖先に韓国人がいるという話をしてたり、普通なら自分に関係のない事柄でもこうして切り取ることで見えてくる共有という形。興味深かった…

7.「ラストワーズ/タイプトレース

f:id:ot20503:20190803033509j:image

様々な人が10分で書いた遺言を見ることができるコーナー。この試みも面白い。

f:id:ot20503:20190803033909g:image

真ん中に置かれたiMacは自動でキーボードを打ち続けるのはエモかった。

↓どうやらまだまだ書けるみたいなので、やってみようかな…

8.「Untitled(Static)

f:id:ot20503:20190803034300j:image

なんともない外の景色にぶら下げられてるスピーカーから聞こえてくる音は頭の中をくすぐらせてくる音。その音が頭をくすぐってくれることでなんともない景色がちょっと違って見えてくるというもの。天気とかでも考えが変わってきそうだな…

9.「その後を、想像する

f:id:ot20503:20190803034846j:image

もし、お子さんを連れて行く方がいらっしゃるなら、ぜひともここに来ればいいのではないか?と思います。まるで「ピタゴラスイッチ」を彷彿とさせる(と言っても、作った人がピタゴラスイッチに参加してるんだけど。)作りになっていて、想像力掻き立てられます…

10.展望回廊へ行ってみた

f:id:ot20503:20190803035058j:image

10階の展示を全て回ったところで展望回廊へ。なんかあるのかなと思ってもガラスに説明が書いてるだけで何だろうと思ったら、下を見てみると、これまた面白い…

11.「tsurugi」「peak」

f:id:ot20503:20190803035633j:image
f:id:ot20503:20190803035629j:image

つづいては、8階へ。まず、最初に目に入るのはこの作品。版画のシルクスクリーンという技法を用いて制作しているらしく、1万回近くも刷り重ねることによって、インクが積み重なり、地層なような表現になるんだそうだ。


f:id:ot20503:20190803035638j:image

f:id:ot20503:20190803035624j:image

作品に大地、命が宿るとはこのことを言うのかと感じたり、作者のこの努力は普通に尊敬できるレベルだと思っちゃった次第…

f:id:ot20503:20190803035616j:image

12.「日常演習

f:id:ot20503:20190803040653j:image

個人的に一番衝撃を受けたのはこの作品。台湾で毎年春先に実施される「萬安演習」という防空演習を捉えたもの。鳴り響くサイレンに誰もいない都市を写すあの映像は虚構ではなく、現実であること。サイレンの残滓とともに残酷なまでに心に響いた。

また、ここの作品にはもう一つあり、「トゥモローランド」という作品なんですが、この言葉を聞いて何かしら引っかかったりしたら、それで合ってますよ。某ランドを彷彿とさせるお城が聳える遊園地が突然爆破をするという作品なのですが、ループしていて終わりがないんです。夢の世界が悪夢のように残酷なまでに壊される。それが直され、また壊される。虚構感は強いけど、どこか現実で起こり得る恐怖を備えているので、なかなか考えさせられた作品でした。個人的にこの作品が一番良かったですね…

13.「チャイルド・ソルジャーf:id:ot20503:20190803042212j:image

こちらは9つの写真とそれらをスライドショーにした2構成になっているのですが、こんな子供なのに兵士として生きているという…これも残酷であり、世界のどこかで今もいるんだということなんですよね…色々と考えさせられます。アートってこういうことが出来るのが素晴らしい。

14.「表現の不自由展・その後

さあ、ここまで回っての例のアレです。これは後で色々書いていきます。

15.「43126

f:id:ot20503:20190803042910j:image

なんかすげぇメンソール臭いなとここに来るまで感じていたのですが、ここのためだったのですね…特に部屋には何かあるわけではありませんが、メンソールのおかげで涙が出てくるんです。難民の数が書かれてるわけですが、たぶんそれだけ見ても変に感情は動かないかもしれません。涙を出すというアクションを起こすためにこういうアイデアを出してきたのは非常に面白かったです。

 

2.「表現の不自由展・その後」に行ってみた

さあ、お待たせしました。議論に議論を呼んでいる展示物へとやってきました。

なお、SNSから汲み取る情報よりも実際に来て確かめて欲しいという意向なのか、撮影は禁止という注意書きがありましたので、この言葉に従って、ここでは画像は出さずに文章だけで書いて行こうと思います。

f:id:ot20503:20190803043757j:image

透明なカーテンを潜り抜けるとあるのは右側に議論をされていた映像、左側には肖像が焼かれる絵や日本人ならパッと見ただけですぐに気づける「空気#1」といった作品があって、お客さんでいっぱいなおかげで狭い通路を抜けると目に飛び込んでくるのは「時代の肖像ー絶滅危惧種 idiot JAPONICA 円墳ー」。憲法改憲や秘密保護法の記事が貼ってあったり、近代オリンピック不要論なる文もあったりして、正しく偏った思想の記事を貼り合わせて一つのお家を作り上げてしまうという恐ろしさと世の中の片隅にはこんな人がわんさかいるんだろうなとか考えながら、次に目に飛び込んできたのは「落米のおそれあり」。これがまた風刺が効きすぎていて、これは実際に見ていただくしかないかなと思います。その横には「アルバイト先の香港式中華料理屋の社長から「オレ、中国のもの食わないから。」と言われて頂いた、厨房で働く香港出身のKさんからのお土産のお菓子」という長いタイトルながらこれがダメなんだと思っちゃいましたね…さらに横に行くと「表現の不自由を巡る年表」が。古いものだと「Nice Boat.」でおなじみ「School Days」などの放送中止や「靖国 YASUKUNI」の上映中止、新しいものだと「遊戯王」のキャラを用いたイラスト問題や札幌での安倍首相へのヤジの排除が書かれていたりしてました。一応、年表の下にはアンケートを記入できるコーナーがあり、僕がきた時は抗議の文を書いてるおじさんと巡り会いました。まあ、色々と見てくと居ても立っても居られない人がいるのも分からなくはないなとは思いましたけどね。「これは許せん…」って言ってたおじさんとおばさんもいたし。そして、その年表の後ろにあるのが「平和の少女像」。片隅にちょこんと座っていて、隣の席で一緒に写真を撮れるスペースもあります。初めて見ましたけど、思ったより嫌な思いはしなかったかな…何の感情も浮かばなかった。むしろ、個人的に今回の展示でえっ、これダメなんだと思ったのがChim↑Pomの「気合い100連発」と「耐え難き気合い100連発」。経緯や背景の真偽はあるにせよ、これらと並んで100連発が展示されているのはどこか異質というか違ったこれダメなんだ…は感じました。

ここのコーナーは展示が出来なかった作品たちがどうして展示できなかったのか。を集めたコーナーなので、個人的には俺、これが不快だから潰すわ…という気は起きませんでしたね。確かにこれはダメだわという考えをするのを否定はできないし、かと言って様々な人がいるこの社会で自分と真逆の考えを持つ人がいようとそれを潰したくないとも思います。自分はそういう異なった意見を拾うのは好きな方ですし、なのでこうした世の多数の人は許さないだろうこうした作品と出会えたのはなかなか面白い機会ではありました。なので、そうした表現を潰す気は無いですね。あと、もうひとつ問題なのがこれがトリエンナーレであること。すなわち愛知県が動いていて、文化庁が助成をしているということ。確かにこの手の表現を公的に行なっているのはそれ相応の批判は来るし、その意見は間違いでは無いと思う。県がこれを動かしてるのと自分たちで動かすのでは全然違いますから。でも、それはリアクションの数も違ってくるだろうと僕は思いますし、僕はトリエンナーレでこれをやるには思想の偏りやらありはしますけど、間違いではないと思います。

 

3.最後に

今回は3時間程しか見ることができませんでした。「表現の不自由展」ばかり騒がれていて、他にもいい作品があるから来てみてというしか言いようはないですけど、色々な考え方、アイデアの数々に出会えて、非常にいい時間の使い方をしたなと思います。

今回行って、あそこの空間に「共感」なんて言葉は存在しないなと思いました。ここ最近SNSをやっていて「共感」という言葉に違和感を抱いていたので、トリエンナーレに行って「個性」の強さを改めて思い知りました。その「個性」で人々を良い意味でも悪い意味でも動かすことができる。でも、あの空間で「共感」を生み出したらその個性は潰されるだろうなというのも同時に感じました。

僕はトリエンナーレを通してその「個性」を潰す行為はしなくてもいいんじゃないかと思いました。あそこにあったのは群れではなく、1人1人が肯定や否定といった正解がない「個性」がしっかりと生きる社会でした。そんな環境を潰して何になるんですか。「個性」が群れで潰してその先に何があるんですか。

そんな自分にない「個性」を探しにトリエンナーレに行くのもいいかもしれませんよ。