Takaのエンタメ街道

一生を映画に捧ぐと決めたTakaが主に映画・テレビ・音楽について書くブログです。

<週刊興行批評>「ミッドナイトスワン」のランクインは日本でどういう道を作るのか?

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今回は「ミッドナイトスワン」について書いております。興行的視点と作品の内容にも触れた長い文章になってしまいましたが、よろしければご覧ください。

 

 

1.先週末のランキング

まずは、先週末のランキングを見てみましょう。

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1位は「TENET テネット」。土日2日間で動員14万5000人、興収2億4600万円をあげ、累計では動員74万人、興収12億円を突破している。

2位は「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」。土日2日間で動員8万8000人、興収1億3200万円をあげ、累計では動員56万人、興収8億円を突破した。

3位は「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」。土日2日間で動員8万2000人、興収1億200万円をあげ、累計で動員69万人、興収8億4000万円を突破した。

4位は「事故物件 恐い間取り」。累計で動員154万人、興収20億円を突破した。

5位は初登場映像研には手をだすな!」。

6位は初登場ミッドナイトスワン」。初日から3日間で動員8万3500人、興収1億2000万円をあげた。

7位は「ドラえもん のび太の新恐竜」。累計で動員258万人、興収31億円を突破。

8位は「」。累計で動員150万人を突破し、興収は間もなく20億円に届く。

9位は「劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song」。累計興収は18億円を突破した。

10位は初登場アダムス・ファミリー」。

 

2.興収チェック!「ミッドナイトスワン」

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初登場6位にランクインしたのは「ミッドナイトスワン」。草彅剛演じるトランスジェンダーの主人公と親の愛情を知らない少女の擬似親子的な愛の姿を描いたドラマで、草彅剛がトランスジェンダーを演じる点が大きな話題を呼んでいた作品だ。

ジャニーズ事務所を退所して、新しい地図としての活動も既に3年が経過してる中で、草彅をはじめ、香取慎吾稲垣吾郎が挑んできたフィールドは音楽活動やCMはもちろんのこと、SNSやブログ、動画配信といったソーシャルメディア活動とともに"映画"があったことは間違いないだろう。

彼らが独立してから半年となる2018年4月、3人が主演したオムニバス映画「クソ野郎と美しき世界」を公開。その後、稲垣吾郎主演の「半世界」(2019年2月)、香取慎吾主演の「凪待ち」(2019年6月)、草彅剛主演の「台風家族」(2019年9月)がそれぞれ公開され(以上に挙げた4作品は配給に「ミッドナイトスワン」と同じく木下グループのキノフィルムズが関わっている)、キネマ旬報ベスト・テンなどでも高い評価を得てきた。着実に演技力に磨きを続けてきたのもこの3年の大きなトピックだろう。

さて、本作だ。2020年は個人的に3年間、彼らが積み上げた物事が世間により見える形で実を結んでいるように思える年に思えるが、映画という観点でおそらくこれからターニングポイントとなる作品であることは間違いない。本作の公開規模は「クソ野郎と美しき世界」の77館、「半世界」の69館、「凪待ち」の72館、「台風家族」の81館に対して、本作は127館*1と最大規模だ。国内最大級のシネコンチェーンのイオンシネマが全体の3分の1に当たる30館、TOHOシネマズに至っては全72館中の67館が上映しているのだ。TOHOシネマズは公開を記念して、先ほど挙げた「クソ野郎〜」以外の3作品の特集上映や一夜限りの先行上映を開催したりとプロモーションに積極的だった。配給会社が違うとはいえ、東宝グループのシネコンがここまでの対応を見せてくれたことにも驚きだ。

本作の評判に加え、以上のような歩みがあり、本作は100館規模の公開ながら、6位にランクインする快挙を成し遂げた。

さて、作品自体にもここで触れていこうと思う。自分は先週の水曜日、すなわちレディースデイで女性の観客が多かった回で観てきた(その効果があってか、デイリーランキングで3位の快挙を成し遂げている)。感想自体はfilmarksにも投稿しているのでそちらを読んでいただきたいが、話の構造自体はよく出来ている作品で、草彅剛と服部樹咲の演技力の高さ、邦画にしてはよく出来た画作りと悪くない一作ではあったが、作品のオチへの収束の歯切れがよくなく、それはネット上でも賛否渦巻いている。それはトランスジェンダーの扱い方自体にも抵触することでもあるし、個人的には様々な映画を観ている身として、こうした結末を作るのが今の日本映画で精一杯なのだろうかと鑑賞後に思った次第ではあった。

なぜそんなことを書いたかといえば、この作品がヒットし、評価をされるのならば、それはこれからの日本映画、娯楽にしっかりと結びついて欲しいと願うからだ。自分は昨年、同じコーナーで「新聞記者」について扱った際にも「メッセージを汲み取るのみに完結をしたりするようではこの映画の姿勢は果たせても、意義を果たしているのかは疑問です。」と書きました。

「ミッドナイト〜」の監督を務めた内田英治監督は「自分の映画を社会的にはしない。これは娯楽。娯楽映画で問題の第一歩を感じれればいい。社会問題は誰も見ない。」とツイートしたように単に社会問題を取り扱うだけでは映画として成立しない場合もあります(その後のインテリ気取りという言葉は言い過ぎだとは思いますが)。自分は映画に社会背景をいかに混ぜ込むかを楽しみにしている側面があります。その当時に都市の背景、社会がどう動き、人々の会話に何が生まれるか。映画はそれを残す素晴らしい発明だと思うんです。では、「ミッドナイトスワン」を観終わった後、観客は何を思い、社会をどう見つめるのだろうか。僕はこの映画が数年後改めて観たときに「草彅剛さんがこんな役をやってくれたからこそこうした問題に触れる人が増えて、社会は少し変わったよね」とか「こうした映画が2020年に出来たけど、あれからLGBTの役者が当事者として演じることができたり、普通の愛し愛されふりふられるラブストーリーや日常生活を描けて、幸せな結末を迎える映画が増えたよね」そう日本にいても思えるように結びつけていきたいと今、書きながら強く思います(現に海外に目を向けるとこうした動きが始まっているわけだからこそ余計にということはありますが)。

こうした結末を作るのが今の日本映画で精一杯なのだろうかと書きましたが、言い換えればこれが次へと繋がるのであれば、それは意味が少しあるのかなとも思うのです。この映画がどれだけヒットし、どれだけ作品やキャストの演技力が評価され、どれだけ社会を次へと進めていくのか。様々なことが試されている作品だと自分は思うし、それだけの力がある作品だと思います(だからここまで長い文章を書いているわけですが)。数年後、この作品がターニングポイントになったとき、その地図に良い道が出来たなと思えることを祈って。

 

3.今週末の注目作

「今週末の注目作」と書きながら、もう今週末終わってるやないか!となりますが、そこは大目に見てください。以後気をつけます…

浅田家!」(10月2日公開)

様々なシチュエーションでコスプレして撮影するユニークな家族写真で注目を集めた写真家・浅田政志の実話をもとに、二宮和也妻夫木聡の共演、「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太監督のメガホンで描いた人間ドラマ。4人家族の次男坊として育ち写真家になった主人公・政志を二宮和也、やんちゃな弟をあたたかく見守る兄・幸宏を妻夫木聡が演じ、家族の“愛の絆”や“過去と今”をオリジナル要素を加えつつ描き出す。

浅田家の次男・政志は、幼い頃から写真を撮ることが好きだった。写真専門学校に進学した政志は、卒業制作の被写体に家族を選び、浅田家の思い出のシーンを本人たちがコスプレして再現する写真を撮影。その作品は見事、学校長賞を受賞する。卒業後、地元でパチスロ三昧の3年間を送った後、再び写真と向き合うことを決意した政志が被写体に選んだのは、やはり家族だった。様々なシチュエーションを設定しては家族でコスプレして撮影した写真で個展を開催したところ、気に入った出版社が写真集を出版。プロの写真家として歩み始める政志だったが、全国の家族写真の撮影を引き受けるようになり、その家族ならではの写真を模索・撮影するうちに、戸惑いを感じ始める。そんなある日、東日本大震災が起こり……。

フェアウェル」(10月2日公開)

中国で生まれアメリカで育ったルル・ワン監督が自身の体験に基づき描いた物語で、祖国を離れて海外で暮らしていた親戚一同が、余命わずかな祖母のために帰郷し、それぞれが祖母のためを思い、時にぶつかり、励まし合うながら過ごす日々を描いたハートウォーミングドラマ。

ニューヨークに暮らすビリーは、中国にいる祖母が末期がんで余命数週間と知らされる。この事態に、アメリカや日本など世界各国で暮らしていた家族が帰郷し、親戚一同が久しぶりに顔をそろえる。アメリカ育ちのビリーは、大好きなおばあちゃんが残り少ない人生を後悔なく過ごせるよう、病状を本人に打ち明けるべきだと主張するが、中国に住む大叔母がビリーの意見に反対する。中国では助からない病は本人に告げないという伝統があり、ほかの親戚も大叔母に賛同。ビリーと意見が分かれてしまうが……。

オーシャンズ8」「クレイジー・リッチ!」のオークワフィナが祖母思いの孫娘ビリーを演じる。

小説の神様 君としか描けない物語」(10月2日公開)

 相沢沙呼による小説「小説の神様」を、佐藤大樹EXILE/FANTASTICS)と橋本環奈のダブル主演で映画化。

中学生で作家デビューしたものの、発表した作品を酷評され売上も伸びないナイーブな高校生作家・千谷一也。一方、同じクラスの人気者であるドSな性格の小余綾詩凪は、高校生作家としてヒット作を連発していた。性格もクラスでの立ち位置も作家としての注目度も正反対の彼らだったが、編集者に勧められ、小説を共作してベストセラーを目指すことに。反発しあいながらも物語を一緒に生み出していくうちに、一也は詩凪が抱える意外な秘密を知る。

監督は「HiGH&LOW」シリーズの久保茂昭

BURN THE WITCH」(10月2日公開)

BLEACH」の久保帯人によるファンタジーアクション漫画「BURN THE WITCH」を劇場中編アニメーションとして映像化。

普通の人は見ることのできない異形の存在・ドラゴン。ロンドンでは遥か昔から、全死因の72%にドラゴンが関わっていた。その姿を見ることができるのは、ロンドンの裏側に広がる「リバース・ロンドン」の住人だけ。その中でも選ばれし者たちがウィッチ(魔女)やウィザード(魔法使い)となり、ドラゴンに直接接触する資格を与えられている。自然ドラゴン保護管理機関「ウイング・バインド」に所属する魔女コンビ・新橋のえるとニニー・スパンコールは、ドラゴンに接触できない人々に代わってドラゴンたちを保護・管理するべく、任務に励む日々を送っていたが……。

監督は「PSYCHO-PASS サイコパス 2」の作画監督や「甲鉄城のカバネリ」のアクショ ン作画監督を務めた川野達朗。

オン・ザ・ロック」(10月2日公開)

ソフィア・コッポラが監督・脚本を手がけ、「ロスト・イン・トランスレーション」のビル・マーレイと「セレステジェシー」のラシダ・ジョーンズが父娘役で共演。

ニューヨークで暮らすローラは順風満帆な人生を送っていると思っていたが、夫ディーンが新しい同僚と残業を繰り返すようになり、結婚生活に疑いを抱き始める。そこでローラは、プレイボーイで男女の問題に精通している父フェリックスに相談を持ち掛ける。フェリックスはこの事態を調査するべきだとアドバイスし、父娘2人でディーンを尾行することに。アップタウンのパーティやダウンタウンホットスポットを一緒に巡る内に2人は距離を近づけていき、自分たち父娘の関係についてある発見をする。

ある画家の数奇な運命」(10月2日公開) (R15+)

長編監督デビュー作「善き人のためのソナタ」でアカデミー外国語映画賞を受賞したフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督が、現代美術界の巨匠ゲルハルト・リヒターをモデルに、ドイツの激動の時代を生きた芸術家の半生を描いた人間ドラマ。

ナチ党政権下のドイツ。叔母の影響で幼い頃から芸術に親しむ日々を送っていたクルトは、終戦後に東ドイツの美術学校に進学し、エリーと恋に落ちる。エリーの父親は、精神のバランスを崩して強制入院し、安楽死政策によって命を奪われた叔母を死に追いやったナチ党の元高官だった。しかし、誰もそのことに気づかぬまま、2人は結婚する。やがて、東のアート界に疑問を抱いたクルトは、エリーと⻄ドイツへ逃亡し、創作に没頭するが……。

主人公クルト役を「コーヒーをめぐる冒険」のトム・シリングが演じた。第91回アカデミー賞では外国語映画賞と撮影賞にノミネートされた。

ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」(10月2日公開)

質素な暮らしぶりで「世界で最も貧しい大統領」とも言われた第40代ウルグアイ大統領ホセ・ムヒカと日本の知られざる関係を描いたドキュメンタリー。

2012年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連会議で、先進国の大量消費社会を優しい口調ながら痛烈に批判したムヒカ大統領。その感動的なスピーチ映像は世界中に広まり、日本でも大きな話題を呼んだ。当時ディレクターを務めていたテレビ番組でムヒカ大統領を取材した田部井一真監督は、ムヒカ大統領が日本の歴史や文化にとても詳しく、尊敬していることに驚かされる。その後も田部井監督は大統領退任後のムヒカに取材を重ね、多くの日本人に彼の言葉を聞いて欲しいと願うように。ムヒカも訪日を熱望し、16年に初来日を果たす。

トロールズ ミュージック★パワー」(10月2日公開)

ボス・ベイビー」「ヒックとドラゴン」のドリームワークス・アニメーションによるミュージカルアドベンチャーアニメ「トロールズ」のシリーズ第2弾。

歌と踊りとハグが大好きな妖精トロールズが暮らすポップ村で、元気いっぱいなみんなの女王として日々を過ごすポピー。実はトロールズの村はかつて王国として繁栄していたが、音楽のジャンルごとに6つに分裂した過去があった。自分たちとは違うジャンルの歌や踊るをするトロールズがいることに興味を抱いたポピーだったが、ロック村の女王バーブが、ほかの村を乗っ取ろうとしていることを知る。ポピーは世界を守るために仲間とともに旅に出るが……。

監督は前作「トロールズ」で共同監督を務めたウォルト・ドーン。ポピー役は「ピッチ・パーフェクト」シリーズなどで歌声を披露してきたアナ・ケンドリック。ブランチ役を務めるジャスティン・ティンバーレイクが、音楽プロデューサーも担当している。日本語吹き替えキャストは上白石萌音ウエンツ瑛士のほか、仲里依紗、兄弟お笑いコンビ「ミキ」の昴生亜生らが務める。

生きちゃった」(10月3日公開) (R15+)

舟を編む」「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」「町田くんの世界」の石井裕也監督が自身のオリジナル脚本を仲野太賀、若葉竜也大島優子のキャストで映画化。

高校時代から仲のよい幼なじみの山田厚久と山田奈津美、そして武田。厚久と奈津美は結婚し、5歳になる娘がいる。なにげない日常を送っていたある日、厚久が奈津美の浮気を知ってしまう。突然のことに、厚久は奈津美に怒ることもできず、悲しむこともできずにいた。感情に蓋をすることしかできない厚久、そして奈津美、武田の3人の関係はこの日を境に次第にゆがんでいく。

厚久役を仲野太賀、武田役を若葉竜也、奈津美役を大島優子がそれぞれ演じる。

 

4.今回の更新

今週は3週分の記事を同時更新しました。ひとつは「クレヨンしんちゃん」、もうひとつは「TENET テネット」「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」について書いております。よろしければご覧ください。

 

というわけで、今週は以上。閲覧ありがとうございました。

*1:館数はすべて興行収入を見守りたい!さんのそれぞれの公開初日の(独立系を含む)デイリー合算ランキングから参照。