今回は「浅田家!」についてと最近のニュースからメジャー洋画の行方を考えていきたいと思います。
1.先週末のランキング
まずは、先週末のランキングを見てみましょう。
1位は初登場「浅田家!」。土日2日間で動員12万6000人、興収1億7200万円をあげ、幅広い層の女性を集客し、初日から3日間の累計では動員20万人、興収2億8000万円をあげるヒットスタートを切った。
2位は「TENET テネット」。土日2日間で動員12万2000人、興収2億1000万円をあげ興収では「浅田家!」を上回った。累計では動員100万人、興収16億円を突破している。
10月10日からは入場者特典の配布も開始しており、リピーターの入場でさらなるヒットとなりそうだ。
㊗100万人動員記念!
— 映画『TENET テネット』公式 (@TENETJP) 2020年10月5日
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3位は「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」。土日2日間で動員8万7000人、興収1億2900万円をあげ、前週比-2.5%と落ちの少ない好調な興行を続けている。累計では動員78万人、興収11億円を突破した。
4位は「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」。累計で動員78万4300人、興収9億5800万円を突破した。
5位は「事故物件 恐い間取り」10月2日より4D上映も始まり、累計で動員163万人、興収21億円を突破。
6位は初登場「トロールズ ミュージック★パワー」。初日から3日間で動員3万8900人、興収4900万円をあげた。
7位は「ドラえもん のび太の新恐竜」。累計で動員263万人を突破し、興収は間もなく32億円に届く。
8位は「ミッドナイトスワン」。累計興収は2億7600万円を突破。
9位は「糸」。累計は動員158万人、興収20億円を突破している。
10位は「映像研には手をだすな!」。
2.興収チェック!「浅田家!」
先週末、初登場1位にランクインしたのは「浅田家!」。様々なシチュエーションでコスプレして撮影するユニークな家族写真で注目を集めた写真家・浅田政志の実話を「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太監督、二宮和也主演で描いた人間ドラマ。
近年の二宮和也出演の映画作品と比較すると「検察側の罪人」の動員比40%、興収比41%、「ラストレシピ」の動員比118%、興収比125%とまずまずのオープニング成績。 最終興収は10億円に届くかどうかだが、平日の動員次第ではさらなる好成績も見込めそうだ。
3.メジャー洋画の波乱はつづく
先週末の洋画でトップ10にランクインしているのは「TENET」と「トロールズ」の2作品のみだ。本来なら、今週末には「ワンダーウーマン 1984」が公開予定だったが、12月25日に延期となった。日本ではコロナの感染者数も一時期に比べれば落ち着いてはきているが、欧米に目を向けるとまだまだ感染者数は収まる気配はない。アメリカでは今でも1日あたり4〜5万人の新規感染者を出し、スペインやフランス、イギリス、イタリアでもここ数日感染者数が急増している事態となっており、まだまだ油断が許されない状況だ。
そして、こうした状況からも欧米の劇場が平常に戻るのはまだ茨の道状態であり、それは作品にも見事に影響が出ている。
11月に公開を予定していた「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」は来年4月に公開を延期。その玉突きでワイスピの新作は来年4月から5月に延期。
ワーナーはドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「DUNE/デューン 砂の惑星」を12月から来年10月に大幅延期。その影響で「ザ・バットマン」は2021年10月から2022年3月に延期になるなど公開スケジュールの見直しが相次いだ。
そして、ディズニーは11月に公開予定だった「ブラック・ウィドウ」を来年4月に延期。今月23日に公開予定だった「ナイル殺人事件」は2ヶ月後の12月、12月に公開予定だったスピルバーグ監督の「ウエスト・サイド・ストーリー」は1年後に延期となった。
さらには、ディズニーはピクサーの新作として日本でも12月に公開予定だった「ソウルフル・ワールド」を自社の映像配信サービス「Disney+」で配信することを決めた。なお、「ムーラン」のように別途課金する形ではなく、配信とともに見放題として視聴可能となるようだ。
というように現時点で年内に公開できるメジャー洋画もほぼないに等しい状態になっている。この状況はいつまでつづくかも分からず、年を越えても延期が続く可能性もある。また、感染者が出て、撮影を中断するパターンもあり、1〜2年では留まらない状態になることも考慮しないといけない。
こうした状態から再び映画館を閉館する動きも出てきている。アメリカ・イギリスの大手映画館チェーン・Cineworld/Regal Cinemasは10月8日(米国時間)から再休業に突入した。アメリカ国内にあるRegal Cinemasの536館、イギリスにあるCineworld/Picturehouseの127館を一斉に休業し、4万5,000人の従業員に影響が生じるという。
「TENET」などが公開され、一時は開館することはできたが、大都市であるニューヨークとロサンゼルスの開館をするところまではいかず、「TENET」は全米興収だけ見ると4510万ドル(世界興収は3億7700万ドル)と苦戦を強いられている。「TENET」がコロナ禍の映画館を救ってくれるのではないかという声も次に繋がる作品の登場がない状態では叶わずじまいとなってしまった。
このまま、映画館が廃れていくのか、そんな危機感がまだ渦巻いているが、悲報だけではない。ここに来て、公開を前倒しする作品が登場している。「マトリックス」の新作は22年4月から21年12月に前倒し。
また、「バイオハザード」シリーズのポール・W・S・アンダーソン監督×ミラ・ジョヴォヴィッチ主演の「モンスターハンター」は来年4月公開から今年の12月公開に前倒した。年末のメジャー映画不足の中ではとてもありがたいところであるだろう。なお、製作には東宝も絡んでいるため、日本ではアメリカよりも早く観られる可能性もあり(国産ゲームの実写化なので最速公開の宣伝が出来たほうがいい)、正月映画の目玉となる期待はあるだろう。
延期に配信スルー、さらには前倒しという手も出てきたメジャー洋画であるが、今後、邦画の話題作公開や単館系での洋画上映で凌げている日本においてもじわじわと影響を感じることになる可能性は否定できない。まずは年末に向けての欧米の映画館の開館、メジャー洋画の公開に向けて動き出し、映画館も雇用も作品たちも死なないことを願うばかりだ。
4.今週末の注目作
「望み」(10月9日公開)
堤幸彦監督と堤真一が初タッグを組み、雫井脩介の同名ベストセラー小説を映画化したサスペンスドラマ。
一級建築士の石川一登と校正者の妻・貴代美は、高校生の息子・規士や中学生の娘・雅とともに、スタイリッシュな高級邸宅で平和に暮らしていた。規士は怪我でサッカー部を辞めて以来、遊び仲間が増え無断外泊することが多くなっていた。ある日、規士が家を出たきり帰ってこなくなり、連絡すら途絶えてしまう。やがて、規士の同級生が殺害されたニュースが流れる。警察によると、規士が事件に関与している可能性が高いという。行方不明となっているのは3人で、そのうち犯人と見られる逃走中の少年は2人。規士が犯人なのか被害者なのかわからない中、犯人であっても息子に生きていてほしい貴代美と、被害者であっても彼の無実を信じたい一登だったが……。
貴代美役に「マチネの終わりに」の石田ゆり子。「八日目の蝉」の奥寺佐渡子が脚本を手がけた。
「82年生まれ、キム・ジヨン」(10月9日公開)
平凡な女性の人生を通して韓国の現代女性が担う重圧と生きづらさを描き、日本でも話題を集めたチョ・ナムジュのベストセラー小説を、「トガニ 幼き瞳の告発」「新感染 ファイナル・エクスプレス」のチョン・ユミとコン・ユの共演で映画化。
結婚を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨンは、母として妻として生活を続ける中で、時に閉じ込められているような感覚におそわれるようになる。単に疲れているだけと自分に言い聞かせてきたジヨンだったが、ある日から、まるで他人が乗り移ったような言動をするようになってしまう。そして、ジヨンにはその時の記憶はすっぽりと抜け落ちていた。そんな心が壊れてしまった妻を前に、夫のデヒョンは真実を告げられずに精神科医に相談に行くが、医師からは本人が来ないことには何も改善することはできないと言われてしまう。
監督は短編映画で注目され、本作が長編デビュー作となるキム・ドヨン。
「星の子」(10月9日公開)
子役から成長した芦田愛菜が2014年公開の「円卓 こっこ、ひと夏のイマジン」以来の実写映画主演を果たし、第157回芥川賞候補にもなった今村夏子の同名小説を映画化。
大好きなお父さんとお母さんから愛情たっぷりに育てられたちひろだが、その両親は、病弱だった幼少期のちひろを治したという、あやしい宗教に深い信仰を抱いていた。中学3年になったちひろは、一目ぼれした新任の先生に、夜の公園で奇妙な儀式をする両親を見られてしまう。そして、そんな彼女の心を大きく揺さぶる事件が起き、ちひろは家族とともに過ごす自分の世界を疑いはじめる。
監督は、「さよなら渓谷」「日日是好日」の大森立嗣。
「異端の鳥」(10月9日公開) (R15+)
ナチスのホロコーストから逃れるために田舎に疎開した少年が差別に抗いながら強く生き抜く姿と、ごく普通の人々が異物である少年を徹底的に攻撃する姿を描き、第76回ベネチア国際映画祭でユニセフ賞を受賞した作品。ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した同名小説を原作に、チェコ出身のバーツラフ・マルホウル監督が11年の歳月をかけて映像化した。
東欧のどこか。ホロコーストを逃れて疎開した少年は、預かり先である1人暮らしの叔母が病死して行き場を失い、たった1人で旅に出ることに。行く先々で彼を異物とみなす人間たちからひどい仕打ちを受けながらも、なんとか生き延びようと必死でもがき続けるが……。
新人俳優ペトル・コラールが主演を務め、ステラン・スカルスガルド、ハーベイ・カイテルらベテラン俳優陣が脇を固める。
「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」(10月9日公開) (PG12)
サンフランシスコを舞台に、都市開発により取り残されてしまった人たちのリアルな姿を描いたドラマ。主人公を実名で演じた主演のジミー・フェイルズが10代の頃に体験した自伝的物語で、フェイルズの幼なじみでもあるジョー・タルボット監督が長編初メガホンをとり映画化。サンダンス映画祭の監督賞、審査員特別賞を受賞した。
IT関連企業とベンチャー企業の発展により、多くの富裕層が暮らす街となったサンフランシスコ。この街で生まれ育ったジミーは、祖父が建て、家族との思い出が詰まったビクトリアン様式の美しい家を愛していた。しかし、地区の景観とともに観光名所にもなっていたその家を現在の家主が手放すことになり、家は売りに出されてしまう。ジミーは再びこの家を手に入れるために奔走し、そんなジミーの切実な思いを友人であるモントは静かに支えていた。
「本気のしるし 劇場版」(10月9日公開)
「淵に立つ」「よこがお」の深田晃司監督が星里もちるの同名コミックを連続ドラマ化し、2019年放送された作品を劇場作品として再編集したサスペンス。
退屈な日常を送っていた会社員の辻一路。ある夜、辻は踏み切りで立ち往生していた葉山浮世の命を救う。不思議な雰囲気を持ち、分別のない行動をとる浮世。そんな彼女を放っておけない辻は、浮世を追ってさらなる深みへとはまっていく。
辻役を「レディ・プレイヤー1」「蜜蜂と遠雷」の森崎ウィン、浮世役をドラマ「3年A組 今から皆さんは、人質です」「連続テレビ小説 べっぴんさん」の土村芳がそれぞれ演じ、宇野祥平、石橋けい、福永朱梨、忍成修吾、北村有起哉らが脇を固める。2020年・第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション「カンヌレーベル」に選出。
「シカゴ7裁判」(10月9日公開)
「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー脚色賞を受賞し、「マネーボール」や自身の監督作「モリーズ・ゲーム」でも同賞にノミネートされたアーロン・ソーキンがメガホンをとったNetflixオリジナル映画で、ベトナム戦争の抗議運動から逮捕・起訴された7人の男の裁判の行方を描いた実録ドラマ。キャストには、「ファンタスティック・ビースト」シリーズのエディ・レッドメインをはじめ、ジョセフ・ゴードン=レビット、サシャ・バロン・コーエン、マイケル・キートン、マーク・ライランス、ジェレミー・ストロングら豪華俳優陣が集結した。
1968年、シカゴで開かれた民主党全国大会の会場近くに、ベトナム戦争に反対する市民や活動家たちが抗議デモのために集まった。当初は平和的に実施されるはずだったデモは徐々に激化し、警察との間で激しい衝突が起こる。デモの首謀者とされたアビー・ホフマン、トム・ヘイデンら7人の男(シカゴ・セブン)は、暴動をあおった罪で起訴され、裁判にかけられる。その裁判は陪審員の買収や盗聴などが相次ぎ、後に歴史に悪名を残す裁判となるが、男たちは信念を曲げずに立ち向かっていく。
NETFLIXで10月16日から配信に先立ち、一部の映画館で劇場公開。
「わたしは金正男を殺してない」(10月10日公開)
2017年にマレーシアのクアラルンプール国際空港で起こった、北朝鮮の朝鮮労働党委員長・金正恩の実兄・金正男暗殺事件。この事件の闇と真相に迫ったドキュメンタリー。
白昼のマレーシアの空港で、金正男が神経猛毒剤「VX」を顔に塗られ、殺害された。彼を殺したのはベトナム人とインドネシア人の2人のごく普通の若い女性だった。彼女たちはなぜ金正男を暗殺したのか。事件を追う中で、それぞれの明るい人生を夢見る貧しい彼女たちにつけ込んだ、北朝鮮工作員たちの姿が明らかとなっていく。
監督は「おしえて!ドクター・ルース」「ジェンダー・マリアージュ 全米を揺るがした同性婚裁判」などのドキュメンタリーを手がけたライアン・ホワイト。
というわけで、今週は以上。閲覧ありがとうございました。